春日山原始林を未来へつなぐ会

お知らせ

【レポート】7/3 第36回世界遺産春日山原始林観察会「春日山原始林の粘菌」

迫りつつある台風4号の影響で、不安定な天候のもと、第36回の観察会が開催されました。今回のテーマは「粘菌」。

これまでの観察会でアンケートをとった際に希望のあったこのテーマです。講師をお願いできる方はいないかと、メンバーで検討してダメもとでお願いしてみようと2021年に相談したのが、今回の講師の川上新一先生でした。

和歌山県立自然博物館で粘菌について研究されており、図鑑等でも粘菌の魅力を発信している先生に来てもらえることになり喜んだのですが、残念ながらコロナによる緊急事態宣言により、延期に。
2年越しでようやく開催となりました。

ただ、生憎の空模様。予報はほぼ1日雨。とはいえ、忙しい先生のスケジュールもあるので今回は中止できないと思い、雨天決行とさせていただきました。

冒頭にご用意いただいた資料をもとに、粘菌(変形菌)について簡単な解説をいただきました。粘菌には、①変形菌と②細胞性粘菌、③原生粘菌の3種があり、今回観察するのは①の変形菌で、②③については、顕微鏡等でないと観察が難しいそうです。

粘菌の特徴はなんといっても、そのライフサイクルです。胞子で飛ばされたあと、アメーバ状→変形体→菌核→子実体と、胞子で増えるもののキノコなどの菌類(真菌)とも異なり、しかも自ら移動することができるというところ。
(詳しくは以下をご覧ください。摩訶不思議な単細胞生物〈変形菌〉に興味が尽きない!<Webマガジン「BuNa」>

今回は、参加者の皆さんと一緒にガサゴソと枯れ葉や朽木を探し、「これかな?」というものを川上先生に見ていただくという形をとりました。

今回は、朽木の多い滝坂の道を目指して歩きます。途中、落ち葉の溜まった白乳神社周辺エリアで観察開始です。

ごろごろどかーんと雷が響く中、枯れ葉を真剣に探す参加者のみなさん。天気が悪くて、ハイカーが歩いていないのが幸いしました(笑)

落ち葉を探る参加者、何をやっている人たちだろうと怪しまれそうです。

冒頭に普段から粘菌観察されている方が易々と見つけたのですが、普段、昆虫や小さな花、苔などを見つけては観察する参加者の皆さんは「どこらへんにいるのかの想像がつかない」と悪戦苦闘。

それでもようやく見つけた「カンボクツノホコリ」「ナミウチツノホコリ」をそれぞれ回しながらルーペで観察します。

ルーペを使って観察。おぉ〜、きれ〜い。などの感嘆の声が漏れます

場所を移動して、滝坂の道の手前、通称滝坂の森周辺に、ここまでくると、皆さん落ちている朽木に何かないかと探し回ります。ここでは、下見で見つけてあった、「マメホコリ」を観察。そのほか、参加者の方が根気良く探してくださったり、それぞれが粘菌の目になって森を探し回ります。

先生、これはどうでしょう?と聞くと「おっ!これは…」と見ていただき、「やりましたね」と言われるととても嬉しいです。

その後、滝坂の道の春日山原始林エリアまで移動、ムクロジの小さな花が道いっぱいに広がっていました。カギカズラの花を観察したり、毛の生えたカタツムリを発見したり、粘菌以外にも小さなキノコ(菌類)やタゴガエル、例年より早くなき始めたヒメハルゼミの声、ムラサキシキブの花なども楽しみました。
小さなものを探すことで、普段見過ごしてしまうそのほかの森のいろいろな生き物たちに目を向ける機会ともなりました。

タゴガエル
ムラサキシキブの花
キノコの仲間

13時からスタートであっという間に3時間。降ると言われた雨もなんとかもってくれて、満足感のある観察会となりました。

■観察することができた粘菌(全9種)
・コシロジクキモジホコリ
・カンボクツノホコリ
・ナミウチツノホコリ
・ススホコリの一種
・マメホコリ
・ホソエノヌカホコリ
・ヒメカタホコリ
・ウツボホコリ
・アオモジホコリ
(下見では、ムラサキホコリも発見)


事務局スギヤマは、初めはなかなか見つけられませんでしたが、徐々に目の付け所を覚え、ホソエノヌカホコリ、ヒメカタホコリ、アオモジホコリの3種を発見。「粘菌の目」を手に入れました。

ホソエノヌカホコリ
ヒメカタホコリ
アオモジホコリ

粘菌の自然界における役割の仮説としてご紹介いただいたのが、バクテリアやカビ・キノコといった「分解者」を粘菌が食べることによって、分解を遅らせている。ということ。それにより、多くの生き物の棲家の提供や、落ち葉などの保水効果を発揮させ、土壌流出を抑えることで、生態系の維持につながっているのではないか。というものでした。
今回、川上先生も初めて春日山原始林の粘菌を観察されたこともあり、春日山原始林のどのような粘菌が存在しているかはまだまだ未知数です。ただ、こうした小さな存在も、春日山原始林を未来へ繋ぐための大切なのだと、改めて実感することができました。

今回は全て子実体の観察だったので、川上先生にお願いして、先生の著作を購入させていただいたので、これを見ながら、今度は変形体の状態を探してみたいと思いました。意外と身近に存在している変形菌、図鑑を片手に近くの公園をガサゴソするのも面白いと思います。

 

変形菌 発見と観察を楽しむ自然図鑑(山と渓谷社)