ナラ枯れ対策の作業を実施しています。
春日山原始林内での保全活動として、9月に林内にナラ枯れ防除対策として、ペットボトルトラップを設置しています。
本来は、ナラ枯れの原因である「カシノナガキクイムシ」は初夏に大量に発生するのですが、今年のナラ枯れ被害が深刻なため、少し時期は遅くなりましたが、この作業に取り組むこととなりました。
トラップは、ペットボトルの注ぎ口付近を切り取って逆さにしたような形のものを沢山連結させて、それを設定した樹に3セット設置し、一番下の所にペットボトルにアルコールを入れた容器を取り付けるというもの。
樹1本につき3セット取り付けるため、十数セットとなりました。
保全ワーキンググループのメンバーの皆さんと、原始林内まで運搬して、まずはある程度組み立てます。
その後、設置する樹まで運び、3人グループで設置しました。 作業を設定していた日が雨天で中止となるなど、なかなか作業が進みませんでしたが、なんとか予定していた数のトラップを設置することができました。
そして、本日、設置したトラップにどの程度カシナガが捕獲できているか、トラップの保守管理作業を行いました。
この時期は、カシナガの活動が低下する時期なので、捕獲数はあまり期待できませんでしたが、場所によっては数千匹も捕獲できている箇所があったり、トラップの効果が発揮されている事が分かりました。
(下写真は、トラップ下部取り付けた誘引材の様子。カシナガ以外の昆虫も入っていました)
ところで、カシナガって何?という方のために、少し説明を。
現在原始林の課題の一つとなっている「ナラ枯れ」の原因とされるのが、この「カシノナガキクイムシ(通称カシナガ)」です。このムシが、樹に入り込んで「ナラ菌」を繁殖させてしまうことで、樹木が枯死してしまいます。
(詳しくは、奈良県ウェブサイト「
ナラ枯れについて」をご覧下さい。
で、どんなムシなの?という疑問があると思いますので、写真をアップしておきます。
ルーペで拡大していますが、実際は5mm程度の米粒くらいのムシです。
これが、数千匹も樹に入ったら・・・。枯れてしまうのも仕方ないと思ってしまいます。
私達にできることは微力ですが、少しでもナラ枯れ被害を食い止めることにつながればと思います。
(事務局 すぎやま)
春日山原始林入門講座 第3回 動物編を実施しました。
本日、春日山原始林入門講座の第3回を実施しました。
1月から月1回のペースで実施してきた入門講座も最終回です。
今回は、「動物編」として、以下の講義を行いました。
・春日山原始林のほ乳類 講師 鳥居春巳 さん(奈良教育大学 特任教授)
・春日山原始林の野鳥 講師 川瀬浩 さん(日本野鳥の会 奈良支部)
最終回ということもあり、今回は最後に参加者の方々から意見を伺うフリーディスカッションも行いました。
■春日山原始林のほ乳類
鳥居先生は、長年春日山原始林のシカを研究されており、奈良県の「奈良のシカ保護管理計画検討委員会」の委員も努めていらっしゃいます。そのため、冒頭は奈良公園のシカ、及び春日山のシカの話を中心にお話しいただきました。
基本的なこととして、奈良公園の平坦部と春日山にいるシカは「別の生き物」と考えた方が良いというくらい、違っているそうです。人間に慣れている平坦部のシカと、人になれていない春日山のシカとは、修正も大きく違うということでした。
また、原始林内のシカについては、周遊道を時速10キロ位で走りながらライトを照らし、反射したものを数える「ライトセンサス」という方法と、決められたエリアを横並びに一斉に歩きながら調査する区画法の二つを行い、そこから想定して概ね90頭程度が生息しているのではないかとのことでした。
この頭数が多いか少ないかという点については、環境省が提示したシカの適正頭数というのがあり、それで考えると原始林を約300ヘクタールと考えると2頭程度ということで、原始林内も奈良公園の平坦部同様にシカが相当増加しているということでした。
それでは、シカ以外にどのような生き物が生息しているのか。
モグラやコウモリ、サル、ウサギ、リス、ネズミ、イタチ、タヌキ、アナグマ、イノシシ、などの他、外来種とされるハクビシンやアライグマ、ヌートリアなども観測されているということでした。
ただし、これまでに観測されているものなので、現在は絶滅しているものもいるのではないかということでした。
その理由として、原始林の乾燥化により、これらの動物たちの生息する環境が少なくなってしまっている。ということです。
県が設置している植生保護柵などを作ることで、下層植生が少しでも回復していくことで、ほ乳類の生息環境が整えば戻ってくるのではないかというお話もいただきました。
鳥居先生のお話は、少し過激な発言とユーモアが入り交じりとても興味深く伺うことができました。
■春日山原始林の野鳥
最後に、野鳥の側面からすると原始林の今の状態は絶望的である。ということでした。けれど、何もしないわけにはいかない。少しでも良いから、原始林の生態系を豊かなものへ戻していくことをすることが大切なのではないかということでした。
■参加者の方々とのフリーディスカッション
最後に、会場の方々と今後のつなぐ会の活動について期待することや「こんな事をやりたい!」と行った意見交換の場を持ちました。はじめは遠慮がちでしたが、様々意見をいただき、また、講師の鳥居先生も色々な情報やご意見をいただく事ができ、充実した内容となりました。
次年度以降、具体的な活動に向けて準備を進めているところですが、原始林の未来を皆さんでどのように描いていくか、それは、「つなぐ会」だけでなく、様々な関係者の方々と手を取り合いながら進めることが必要だと感じました。
(文責 事務局 杉山拓次)
春日山原始林遊歩道北部観察研修会を実施しました。
3月18日と22日に、春日山原始林を未来へつなぐ会の会員さん対象に「春日山原始林北部遊歩道観察研修会」を開催しました。いずれの日程も30名弱の会員さんがお越しくださいました。
今回の観察会は、前回1月に開催した南部の遊歩道に続いて、北部の遊歩道から、原始林の現状を見て、今後のつなぐ会で実施する保全活動について、イメージを持ってもらう事が目的です。
はじめに原始林の遊歩道の開始地点を確認しました。遊歩道の北部は、月日亭の所まで自動車の乗り入れができるようになっています。この道を歩きながら、途中、今はもう倒れてしまい跡形もなくなったムクロジの巨木の話などしながら、原始林へと向かいます。
周りの景色が少しずつ森の中という雰囲気に入ったところで、多く見られるのが「ナギ」。
葉っぱ一見すると広葉樹のように見えますが、よく見ると葉脈が縦に流れており、針葉樹に分類されています。
本来暖かな地域に自生する木なので、熊野地方では古くから神木として利用されており、熊野信仰が盛んな頃に献木されたものではないかとされています。
この樹を参加者の皆さんに触っていただき印象を聴くと「堅い」という声が。このナギの樹は成長が遅いため細くても樹齢は100年を越えるものもあり、そのためガッシリとしているようです。
そこからしばらく歩くと、今度はネットが張ってある大木が現れました。
これは、現在全国的にも問題になっている「ナラ枯れ」を予防するためのネットです。カシノナガキクイムシという昆虫が原因で、ドングリの木が枯れてしまう病気を防ぐために、原始林では大きな樹を中心に数百本のネットが巻かれています。遊歩道を歩く中であちこちに見られます。この被害が、原始林でどれだけ広がってしまうかによって、今後の原始林の森林生態系が大きく変化してしまう恐れがあると言われています。
(参考:林野庁/ナラ枯れ被害
http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/naragare.html)
その後も、ゆっくりと歩きながら、照葉樹林を構成しているシイ・カシ類の樹木や、原始林内の巨木として数多く見られるモミやスギの巨木を見たり、ナギ同様にシカが食べないことなどから原始林内に多く見られるサカキやアセビ、シキミなどを観察しながら歩きました。
また、大きな樹が沢山ある春日山原始林ですから、土壌が非常に豊かなのかと考えがちですが、遊歩道沿いの崩落箇所などを見ると、非常に薄い土の層の下は岩があり、多くの木々ができる限りの根を伸ばして、生きています。また、それと同時に下層植生(地面に生えている笹などの植物)がほとんどないということにも気がつきます。約20年ほど前までは、藪が存在し、そこに生きる野鳥なども多く見られた原始林ですが、現在乾燥化が進んでおり、観察できる野鳥もかなり変化があると言うことでした。
ゆっくり歩いて、若草山頂上へ到着。普段なら1時間もかからずに上ってしまう遊歩道を倍近くの時間を掛けて上ってきたため、ここで昼食となりました。
18日も22日も春の陽気となり、頂上ではチョウも発見、また、キツツキの仲間のアカゲラを見ることもできました。
その後、原始林を見渡し、原始林がモコモコしている常緑広葉樹と尖っている針葉樹で構成されていることや、春日大社のご神体でもある御蓋山との位置関係なども確認し、原始林全体のイメージを地図で確認した後、研修は終了となりました。
原始林で起きている問題をよくよく見ていくと悲観的な気持ちになってしまいますが、「つなぐ会」が目指す原始林とはどのような姿なのか。会員の皆さんをはじめ多くの方々とイメージを共有しながら、未来へつなぐ活動を進められればと感じました。
おまけ。アカゲラの写真。
デジカメをズームするとなかなか捉えられず。何とか画面の端に入っていました。
(文責:事務局 杉山拓次)